サスペリアの解説(1977年 ダリオ・アルジェント)

最終更新日 2016年7月6日 by Kazu

 ダリオ・アルジェント監督は、もともとはイタリアで推理ものを意味するジャッロ(または、ジャーロ)を得意としていましたが、この作品で初めてオカルトものを手がけました。しかし、これが世界ヒットとなり国際的ビッグネームの仲間入りをしました。

 アメリカにも残酷な表現を含むホラー映画は沢山ありますが、どこかカラッとしたドライな印象があります。一方、アルジェントの作品はウェットで後味の悪さを残します。恐怖をあおる映像表現は独特なアイデアに満ちていて、アメリカ映画のそれとはあきらかに違います。それがコアなホラーファンのツボを突いてくるのです。

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■独特なアルジェントの演出

 ダリオ・アルジェントの作品には、観客の心理をもてあそぶような様々な演出が施されています。この作品でもイタズラ好きアルジェントの個性的な仕掛けが随所に見られます。その一部を紹介しましょう。

  • 冒頭、空港に到着したスージーが自動ドアをただ通り過ぎるだけの シーンにおいて、ドアが開く瞬間ドアの開閉部分を突然どアップにして観客を脅かします。
  • タクシーの車内シーンでは、運転手の首筋に幽霊の顔が写っています。(でもその幽霊の顔は、よく見るとどこかで見たような顔・・・)
  • タクシーが森の中を走るとき、一本の木に鎌のようなものの影が映ります。
  • 1人目の犠牲者は、アパートの一室で襲われるときに顔を手で窓ガラスに押し付けられ、ひしゃげた顔面をさらされます。(犯人が何でそんなことをしたのか、特に説明は無い)

 実際これらのシーンを見てみると、なにげない演出のように見えます。しかし、これらの仕掛けはボディーブローのように効いていて、観客を精神的に追い詰めているのです。

 この作品のもう1つの特徴は音楽です。イタリアのプログレッシブ・ロックバンド、ゴブリン (Goblin) が奏でるおぞましいサウンドが終始鳴りつづけています。

 これらアルジェントが作り出す映像と音楽の相乗効果は、まだ何も起きていない段階から圧倒的な不安を生み出し、観客に休むヒマをあたえません。

■『サスペリア』発想の原点

 『サスペリア』の物語の発想は、当時アルジェントと私生活でも親密な関係にあったダリア・ニコロディによってもたらされました。

 ダリア・ニコロディは、いくつものアルジェント作品に出演している女優で、『サスペリア』では冒頭の空港のシーンにカメオ出演しています。

 前作Profondo Rosso(邦題:『サスペリア2』)製作後、ジャッロに飽きはじめ他の題材を探していたアルジェントにニコロディはスリラー探偵物と幻想をミックスした話を提案したのです。

 その話とは、ニコロディが子供のころ祖母から聞いた体験話と、英国の随筆家トマス・ド・クインシーが1845年に発表した小説『深き淵よりの嘆息』(原題 Suspiria de Profundis)をモチーフにしたものでした。

 祖母の体験談とは、彼女が若いころピアノのレッスンのために通っていたある学校の話です。その学校は表向きは有機栽培、ダンス、ピアノや音楽を教えていました。しかし実際には黒魔術を教えていて、祖母は怖くなって逃げ出したというのです(ニコロディはその学校はまだ実在していて、とても危険なので名前は明かしたくないと言います)。

 そして、ニコロディが愛読するトマス・ド・クインシーの『深き淵よりの嘆息』には3人の魔女が登場します。

 『サスペリア』は「不思議の国のアリス」、「白雪姫」、「青ひげ」などの童話からインスピレーションを受けてはいるが、明らかに黒魔術を示唆しているのでこれらの物語とはあきらかに違うとニコロディは考えています。

シュタイナー設計の建築物「第1ゲーテアヌム」
シュタイナー設計の建築物「第1ゲーテアヌム」

 一方、アルジェントは『サスペリア』の発想の原点として、彼がヨーロッパ旅行中に訪れたルドルフ・シュタイナーが造ったコミュニティをあげています。

 アルジェントは、そのコミュニティはスイス、フランス、ドイツの3カ国が接する場所(アルジェントはそこをマジカル・トライアングルと呼んでいる)の近くにあると言います。

■ルドルフ・シュタイナーとは?
ルドルフ・シュタイナー 1905年
ルドルフ・シュタイナー 1905年

 ルドルフ・シュタイナー(1861-1925)はウィキペディアによると、オーストリア帝国出身の神秘思想家、アントロポゾフィー(人智学)の創始者で、1900年代以降は、物質世界を超えた“超感覚的”(霊的)世界に関する深遠な事柄を語るようになり、世界中でシュタイナー学校を展開したと紹介されています。その活動は哲学、精神科学、教育から芸術、建築、医学、農業など多岐にわたっています。

■脇を固める2人の大女優
ジョーン・ベネット(1938年)
ジョーン・ベネット(1938年)

 出演者では、フリッツ・ラングの『飾窓の女』(’44)や『緋色の街/スカーレット・ストリート』(’45)に出演した、副校長マダム・ブランク役のジョーン・ベネット(1910-1990)が注目です。ジョーン・ベネットは無声映画時代から女優歴があり、その優雅な演技が見ものです。彼女にとって『サスペリア』は最後の映画出演作品となりました。

アリダ・ヴァリ(1947年)
アリダ・ヴァリ(1947年)

 もう1人は、キャロル・リードの『第三の男』(’49)やルキノ・ヴィスコンティの『夏の嵐 』(’54)などに出演した、教師タナー役のアリダ・ヴァリ(1921-2006)です。アリダ・ヴァリは美人女優でならした40~50年代とは違い、鬼気迫る演技でアルジェントの期待に応え、強烈な印象を残しています。

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[作品データ]

監督 ダリオ・アルジェント
脚本 ダリオ・アルジェント、ダリア・ニコロディ
出演者 ジェシカ・ハーパー、ステファニア・カッシーニ、ジョーン・ベネット、アリダ・ヴァリ、ウド・キア
音楽 ゴブリン
上映時間 99分