最終更新日 2016年7月9日 by Kazu
【解説】
今日はフランシス・フォード・コッポラの作品を紹介します。1974年公開の『カンバセーション…盗聴…』です。
コッポラといえば『ゴッドファーザー』シリーズや『地獄の黙示録』を思い浮かべる人が多いと思います。
この映画はそれらの作品の陰にかくれてしまい、コッポラ作品の中では地味な印象です。実際、興行的には失敗だったそうです。
しかし、多くの批評家がこの映画を高く評価し、同年のカンヌ映画祭ではグランプリ(当時のカンヌ映画祭の最高賞)を獲得しました。
盗聴屋ハリーを演じるのはジーン・ハックマン。そして、メジャーになる前のハリソン・フォードが、重要な役を演じ強烈な印象を残します。また、盗聴の依頼主の役でロバート・デュバルがカメオ出演しています。
終盤は意外な展開で人間の恐ろしさを示すコッポラ。この映画はコッポラの繊細な才能が確認できる第一級のサスペンス・スリラーです。
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■アントニオーニの『欲望』から 得たインスピレーション
この作品はコッポラがミケランジェロ・アントニオーニ監督の『欲望』(1967年英・伊)のような映画を自分でも撮ってみたいという思いから始まったそうです。
たしかに、ハリーが盗聴したテープのある一部分を何度も巻き戻しながら繰り返し聞くところは、『欲望』の主人公が盗撮した写真のある一点を拡大して真実に迫ろうとする場面と重なります。
また、この作品は自分の信仰深さと職業に起因する罪悪感との間で悩み孤独に生きるハリーの姿や、盗聴業界という一般的にはあまりよく判らない世界の人間模様を描いて、現代社会に対する疑問を投げかけています。
■観客を騙すコッポラの印象的な演出
この作品はコッポラの繊細で巧みな演出が随所に見られます。特に音の使い方が秀抜で、それは冒頭のシーンから始まります。
“ユニオンスクエア”という広場を高い位置から望遠でとらえる映像。午後のひとときを大勢の人が思い思いに過ごしている様子。街のざわめきに混じってラジオのノイズのような音が聞こえてくる。次に映ったのは、ビルの高層階からライフルのようなもので狙いを定める1人の男。画面が照準器から覗いた映像に切り替わると、そのマトの中心には1組の男女がいる。ビルの男は照準器付きガンマイク(集音マイクの1種)を広場に向けて盗聴していたのです。そして、先ほどから聞こえていたノイズは、そのマイクが拾っている男女の会話であることがわかってきます。
また、3ヶ所から同時録音されたテープをハリーが仕事場で編集する場面では、3つのテープに記録された男女の会話が、それぞれの空白部分を補い合いながら同時に巨大スピーカーから再生されます。そして、そこに冒頭の男女が広場を歩く映像が再び流れます。
ここでコッポラはハリーの編集作業シーンという体で録音テープを反復させ、観客に男女の会話を何度も聞かせます。それによって、観客がこの男女に感情移入するようにコッポラはさりげなく仕向けているのです。なんとも見事な演出!すっかり騙されてしまいました。
■盗聴の第一人者、ハル・リップセットが製作に協力
この映画には技術アドバイザーとして盗聴エキスパートのハル・リップセットが参加しており、作品のリアリティ向上に大きく貢献しています。
ハル・リップセットは1972年から始まったウォーターゲート事件の際、上院ウォーターゲート特別委員会の主席顧問サミュエル・ダッシュに調査員として雇われた人物で、盗聴テープの空白部分を解析したことで知られています。
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[作品データ]
監督・脚本 フランシス・フォード・コッポラ
出演者 ジーン・ハックマン、ジョン・カザール、アレン・ガーフィールド、フレデリック・フォレスト、シンディ・ウィリアムズ
音楽 デイヴィッド・シャイア
上映時間 113分