黒沢清『廃校綺談』の感想

最終更新日 2023年6月8日 by Kazu

▲ネタバレあり

『廃校綺談』を初めて観たのは、まだレンタルビデオ店に通っていたころだと思う。
黒沢清のホラー物でテレビドラマ、なかなか観れる機会も無いと思い借りたのだ。

『学校の怪談f』というテレビ番組は3つのドラマで構成されていて、『廃校綺談』はその第3話だったようだ。

26分程の短い作品なのだが、洗練されたシーンがいくつもあって、『CURE』の時と同様に新鮮な驚きがあった。

内容は、廃校が決まった中学校に通う男子生徒が、校内で不思議な現象に遭遇する話だ。

見始めてまず感じたのは、生徒は子役の俳優が演じていて、セリフが舌っ足らずで聴き取りづらいこと。
しかしこれは、リアルな中学生の空気が感じられて良い。

また、やる気の無い生徒と先生の会話、廃校の準備が進むガランとした校内などから、区立中学特有の空虚な雰囲気を感じることができた。
この空虚さは黒沢作品でよく表現されているものの1つ。

男子生徒の友田は、校内で不審な人影をたびたび目撃していた。
髪の長い女子生徒。黒沢清がよく使う、じっと佇む黒い人影だ。


友田は休み時間に、クラスメートの梶といつも話をする。転校を前に気持ちが不安定な中学生同士の会話。
たどたどしい子役の演技は、逆にリアルさがある。


友田は、以前から学校にまつわる妙な噂話を耳にしていた。それを聞いた梶は、自分が知っている不気味な噂話を披露する。
そのシーンで良いなと思ったのは、友田がもらす一言だ。

「なんか変だよな。30年間のいろんな噂話がさ、あと2週間で消えて無くなっちゃうなんて」

また、印象に残ったシーンの一つは、梶の机の中からカビの生えた教科書や上履きが出てくるところだ。
それを見つけて呆然としている友田に、クラスメートの佐野が言う。

「その席、誰もいないぜ」

このシーンでは、それまで何度も友田が校内で見た黒い人影はサブキャラで、黒沢清が撒いた囮だったことが判明する。
そして、いつも友田の話し相手だった梶こそが、ボスキャラだったのだ。
視聴者は初めからずっと幽霊を見せられていたことになる。

現実の世界と、死者の世界を行き来していた友田。
クラスメートは梶を知らなかったし、生徒が撮った写真にも梶は写っていなかった。

黒沢清はよく、現実のシーンとあちら側のシーンを、いつの間にか混ぜている。『廃校綺談』でも、その手法を見事に使った。

このあと、ドラマはクライマックスに向かって走り出す。

ショックを受けて動揺する友田がふと見上げると、屋上から梶がゆっくり手招きしている。
屋上に行ってはいけないと呟きながら、何故かエレベーターで屋上にたどり着く。

そこで目にしたのは、プールの縁に立っている梶が、水の中に落下する光景だ。
テレビドラマでこのレベルのものを放送していたとは驚きだ。

気になったことは、階段から落ちてくる氷の塊のシーン。
二度あるのだが、最後まで意味が解らなかった。自由な解釈が可能だろう。

後、気になったことがもう一つ。前半で用務員の男が、廃校となる校舎への思いを友田の髪を掴んでこう言う。

「この中にはな、30年の記憶が全部閉じ込められているんだよ。それを最後まで見届けるのが、お前たち在校生の義務だろ」

このセリフが、その後の心霊現象に一定の説得力を持たせた感じはする。
しかし、まだ幼さの残る中学生にかける言葉としては深すぎる。
自分は好きですけどねw

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[作品データ]
制作・著作 関西テレビ
監督 黒沢清
脚本 大久保智康 黒沢清
出演者 大沢健人 車宗洸 鈴木夕佳 新田亮 諏訪太朗 ベンガル
上映時間 26分