都会の孤独を描いた映画『タクシードライバー』の解説(1976年 マーティン・スコセッシ)

【解説】

 この作品は1976年公開のマーティン・スコセッシ監督作品で、ロバート・デ・ニーロが都会の中の孤独なアンチヒーローを演じたアメリカ ン・ニューシネマの傑作。

 製作は『スティング』(1973年)で大成功を収めていたマイケルとジュリアのフィリップス夫妻。脚本はポール・シュレイダー。この作品はアカデミー賞4部門にノミネートされ、カンヌ映画祭パルム・ドールに輝いた。

■脚本のテーマは<孤独>

 ポール・シュレイダーの親友で映画監督のブライアン・デ・パルマは、シュレイダーから『タクシードライバー』の脚本を見せられたとき、これはスコセッシが撮るべき作品だと思ったそうだ。デ・パルマが脚本をスコセッシに見せると熱狂的な反応が返ってきた。なぜなら、スコセッシはドストエフスキーの『地下室の手記』を映画化したいと考えていて、シュレイダーの脚本はそれに近いものだったからだ。

 一方、ロバート・デ・ニーロも似たような反応を示した。スコセッシによれば、デ・ニーロはかつて政治的暗殺をテーマにしたシナリオを書こうとして、スコセッシにストーリーを語ったことがあった。『タクシードライバー』の脚本を読んだデ・ニーロは、これで自分のシナリオは書く必要がなくなったと言ったそうである。

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 シュレイダーはジョージ・ウォレス知事暗殺未遂事件を起こしたアーサー・ブレマーの日記や、サルトルの実存主義にもとづく小説『嘔吐』などにインスピレーションを得てこの脚本を書き上げた。

「この映画は群集の中にいて孤独感に苛まれている男の物語だ」とシュレイダーは言う。

 彼は脚本家としてまだ芽が出なかったころに離婚し、知人の家に泊まったり車上生活をして長い間誰とも会話をせずに社会から孤立していた時期があった。

 この作品はその暗い内容にもかかわらず多くの観客、批評家に受け入れられた。スコセッシは決して万人向けに作ったわけではなかったのに驚いたと語っている。

 この映画のファンの中にはまるで自分の事が描かれているようだと言う人が多くいる。公開当時 、シュレイダーの事務所には「何で俺の事が分かったんだ?」と言う見知らぬ男が実際に押しかけてきたそうだ。

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■<心の風景>を写したスコセッシ

 この作品が評価されたのはシュレイダーの脚本の素晴らしさだけではなく、スコセッシの類まれな映像感覚も大きく貢献している。

 例えば、トラビスがタクシー会社の面接を受けたあとに続くシーンは特徴的である。

 カメラは事務所を出たトラビスを一旦はフレームの端にとらえるが、彼を追うことはせず、車庫の内部にカメラを向け360度近くパン(固定したカメラを左右に振ること)させてトラビスが存在している世界を写している。

 トラビスが選挙事務所で初めてべッツィを見かけるシーンはスローモーションで、その上にトラビスの日記の文字が被さってくる。

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 これらのゆっくりとしたカメラの移動やズームアップ、スローモーションはトラビスの登場しているシーンにのみ使われている。つまり、これらはトラビスの心の風景なのだ。

 この映画の殆どのシーンは、トラビスの心象風景で成り立っていると言える。そのため冒頭のタイトルバックでは、眉間にしわを寄せ街を眺めるトラビスの顔のアップが象徴的に示される。

 スコセッシはインタビューでこう語っている。

  “『タクシー・ドライバー』は、映画は実際のところ一種の夢の状態、あるいは麻薬に酔った状態だという私の考え方に起因するところが大きい。” (デイヴィッド・トンプソン他編『スコセッシ・オン・スコセッシ : 私はキャメラの横で死ぬだろう 』宮本高晴訳、フィルムアート社、2002、p.102)

  “映画におけるアプローチの問題に限れば、空想と現実との間に相違はないと私は思っている。無論、現実生活でそんなことをすれば精神病だ。でも映画では両者の境界は無視することができる。” (同上、p.104)

 これらの映像からはトラビスの心の動きが解ると同時に、このような視点の持ち主がどのような人間なのかも観客におのずと伝わるようになっている。それは社会から孤立し自分の殻に閉じこもる人間だ。

 スコセッシはトラビスが心に焼き付けた風景を写すことによって、トラビスの人間像を浮き彫りにしたのだ。

 撮影のマイケル・チャップマンは、スコセッシには視覚的センスがあり、その斬新な撮影手法にスタッフがショックを受けたと語っている。このような映像表現は、シュレイダーが脚本で描いた「孤独」にスコセッシが深く共感できていた事の証であろう。

■<自己矛盾>を理解した監督とデ・ニーロ

 シュレイダーの脚本のテーマは「孤独」でだったが、書き進めるうちに自らの「孤独を求める行為」に気がついた。それは自分の理想とするものとは反対のものを、自らが追い求めてしまう心の衝動だ。

 トラビスはポン引きに売春をさせられている少女を更生させようとするが、普段は好んでポルノ映画を見に行く。また、激しいトレーニングで体を鍛える一方で、不健康な食事をしたり薬を乱用したりする。これらの行為もシュレイダーの考える自己矛盾である。

 シュレイダーはスコセッシもデ・ニーロもこのような矛盾した衝動に共感し議論の必要は無かったと語っている。

■役作りのためタクシー運転手として働いたデ・ニーロ

『タクシードライバー』の準備期間は2週間だったが、イタリアでベルナルド・ベルトルッチ監督『1900年』(1976年公開)の撮影中だったデ・ニーロは、トラビスがアメリカ中西部出身という設定だったため、北イタリアにある米軍基地に行き中西部出身者の会話を録音して役作りを行った。

 また、タクシー免許を取得し週末だけニューヨークに戻り、実際にタクシーで街を流すということもしていた。

■アイリスは実在の少女がモデル
ジョディ・フォスター 1974年
ジョディ・フォスター(1974年)

 アイリスのモデルになりそうな15歳の少女を街で見つけたシュレイダーは、自分の泊まっていたホテルに彼女を呼び、アイリス役のジョディ・フォスターとスコセッシ監督と4人で朝食をとったそうだ。

 そのときの少女の言動がアイリスのイメージに繋がったのである。ジャムを塗ったパンに砂糖をかけるのもその時少女がやっていた行動である。

 彼女は映画にも出演しており、アイリスがトラビスの運転するタクシーに轢かれそうになったとき、咥えタバコでアイリスの腕を引っぱるのがその少女である。

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[作品データ]

監督  マーティン・スコセッシ
脚本  ポール・シュレイダー
出演者 ロバート・デ・ニーロ、シビル・シェパード、ハーヴェイ・カイテル、ジョディ・フォスター、アルバート・ブルックス
音楽 バーナード・ハーマン
上映時間 114分