ターミネーターの解説(1984年 ジェームズ・キャメロン)

最終更新日 2016年7月6日 by Kazu

▲ネタバレを含みます

解説】

『ターミネーター』は、前作『殺人魚フライングキラー』(’81)で失敗した監督ジェームズ・キャメロンの起死回生のSF映画で彼の出世作。また、元ボディビルチャンピオンだった俳優アーノルド・シュワルツェネッガーが、ターミネーター役に抜擢され、世界的なスターになった作品でもある。

 この作品は、制作費が続編『ターミネーター2』の16分の1という低予算ながら、キャメロンのさまざまなアイデアで問題を乗り越え、大ヒットに繋げた作品である。

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■シュワルツェネッガーはカイル・リース役候補だった
アーノルド・シュワルツェネッガー(2005年)
アーノルド・シュワルツェネッガー(2005年)

 当初、配給元のオライオン・ピクチャーズ社はカイル・リース役にアーノルド・シュワルツェネッガーを予定していた。

 彼らはこの役に、ターミネーターと戦えるだけのタフさや男らしさ、国際的なアピール力を求めていて、元ボディビルダー世界チャンピオンで、すでに数本の主演映画があったシュワルツェネッガーは、うってつけと考えていたのだ。

O・J・シンプソン(1990年)
O・J・シンプソン(1990年)

 一方、ターミネーター役にはやはりオライオン社から元アメリカンフットボールの名選手O・J・シンプソンの名が挙がっていた。シンプソンは、現役選手時代から『カサンドラ・クロス』(’76)『カプリコン・1』(’78)などの映画に出演していた。

 しかし、キャメロンはこれらの案には反対だった。キャメロンはターミネーター役には、『殺人魚フライングキラー』で共にピラニア作りをやった旧友ランス・ヘンリクセン(ブコビッチ刑事役で『ターミネーター』に出演)を考えていた。ターミネーターは抵抗軍への潜入を目的としていて、彼の容姿ならぴったりだと考えていたからだ。

 実際、ヘムデール・ピクチャーズ社とのミーティングでは、衣装と特殊メイクでターミネーターになりきったヘンリクセンをプレゼン開始の15分前にヘムデール社のオフィスに乱入させ、キャメロンが到着するまで居座らせるということをやっている。

 キャメロンは、オライオン社の顔を立てるためにシュワルツェネッガーとの会食をしぶしぶ承諾した。しかし、リース役候補のシュワルツェネッガーが、敵役ターミネーターの武器の扱い方や動きについて熱心に語る様子やその容姿を間近で見て、彼こそターミネーターに相応しいと考えた。そしてこの会食が二人の長年に渡る友情の始まりになったのである。

■キャメロン初作品に『ターミネーター』のロボット兵器が登場

 キャメロンは、大学を中退したあとトラック運転手となっていたが、77年公開の『スター・ウォーズ』にショックを受け、仕事をやめ映画製作にのめりこんだ。完成したのは、『Xenogenesis』という宇宙船内でのロボットと人間の戦闘を描いた作品だ。

 この作品には、『ターミネーター』で描かれたキャタピラ付きのロボット兵器とほぼ同じものが登場している(YouTubeに感謝!)。そして『ターミネーター』同様レーザー光線を発射し、主人公の少年を攻撃しているのだ。ここから解るのは、未来世界におけるロボットの反乱は、キャメロンの映画製作における基本的なテーマだったということだ。

■勝因は<キャメロンの世界観>が伝わったこと

『ターミネーター』は、1作目の『スター・ウォーズ』から7年後の作品であるにもかかわらず、その特殊撮影の出来は決して新鮮味のあるものではなかった。それは『ターミネーター』製作当時、まだ無名のキャメロンにつく予算は限られていたからだ。

 しかし、公開後の『ターミネーター』の評価は高かった。その理由はキャメロンが伝えたかった世界観がしっかり観客に伝わったからである。

 カイルは、繰り返し未来に起こる核戦争や機械の反乱について語っていた。人工知能、スカイネット、サイボーグ、タイムスリップなど様々な言葉が列挙された。それはカイルからサラへのメッセージであると同時に、キャメロンから観客へのメッセージでもあった。

 観客は、無意識のうちに想像することを強いられた。キャメロンは、自分が今までやってきたことを観客にも促したのだ。その想像が現実のものとなるのが、タンクローリーの残骸から骨組みだけになったターミネーターが現れるシーンである。

 キャメロンと特殊効果のスタン・ウィンストンが作り出したこの造形物を、観客はサラと一緒に目撃させられる。しかし、それはカイルが語っていた2029年の未来がチラッと垣間見えたにすぎない。キャメロンがこの作品の中で映像として表現できた未来は、カイルの回想シーンを含めてもキャメロンの思い描く世界のほんの一部にしかすぎない。

 しかし、それでもう十分だったのだ。なぜなら、そこに至るまでにカイルに何度も未来の出来事について語らせていたからだ。結局キャメロンは、言葉で観客の想像力を刺激することによって、具体的に映像で表現した以上のものを伝えることに成功した。

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[作品データ]

監督 ジェームズ・キャメロン
脚本 ジェームズ・キャメロン、ゲイル・アン・ハード
出演者 アーノルド・シュワルツェネッガー、マイケル・ビーン、リンダ・ハミルトン
音楽 ブラッド・フィーデル
上映時間 108分