遊星からの物体Xのあらすじ・解説(1982年 ジョン・カーペンター)

最終更新日 2016年7月7日 by Kazu

 『遊星からの物体X』は、ジョン・カーペンター監督による1982年公開のSF映画で、ハワード・ホークス製作の1951年公開『遊星よりの物体X』のリメイク作品。2011年にはこの作品の前日譚にあたる『遊星からの物体X ファーストコンタクト』が公開された。

 

《あらすじ》

 1982年、アメリカ南極観測隊第4基地に銃声が響いた。隊員たちが表に出てみると、1匹の犬とそれを追うノルウェー隊のヘリが見えた。ヘリから降りてきた男は、母国語で何かを叫びながら基地の敷地内に逃げてきた犬に執拗に銃撃をくり返した。その流れ弾がアメリカ隊員の脚に当たると、基地内にいた別の隊員が男を射殺した。

 アメリカ基地の隊員マクレディ(カート・ラッセル)らは、ノルウェー隊の謎の行動を探るべく、ヘリでノルウェー基地へ向かった。捜索の結果、生き残ったノルウェー隊員はおらず、中が空洞の長方形の氷の塊と奇妙な生物の死骸が見つかった。マクレディたちは、その死骸とノルウェー隊が撮影したビデオテープを基地に持ち帰った。

 生物学者のブレア(A・ウィルフォード・ブリムリー)が死骸を解剖してみると、それは複数の動物のイミテーション(模倣)の集合体であると判った。ビデオには10万年前南極に墜落した地球外の宇宙船をノルウェー隊が発見したときの様子が記録されていた。

 一方、ノルウェー隊が追っていた犬は夜になって突然変異をはじめた。頭が裂け複数の触手が伸びた。警報が鳴るなか、隊員たちは火炎放射器でその<物体>を焼き払った。

 ひとりになったブレアは、PCで<物体>の行動をシュミレーションした。その結果、<物体>が別の生物の細胞を取り込んで、その生物に同化することを突き止めた。さらに、<物体>が全人類を同化するまでに必要な時間は、27,000時間であることが判明した。ブレアは仲間の隊員の中に、すでに同化されているものがいる可能性を感じた。

 そのころ基地の倉庫では、ノルウェー基地から運んだ例の死骸が触手を伸ばしてベニングス(ピーター・マローニー)に絡み付いていた。それを目撃したウィンドウズ(トーマス・G・ウェイツ)はマックスを呼びに行った。

 倉庫から抜けだし雪の上を歩いていた<物体>は、基地からとび出してきた隊員たちに囲まれた。<物体>は両腕以外はベニングスそのものだった。「こいつはベニングスじゃないぞ」と誰かが言った。マックスが火を放つと<物体>は咆哮をあげて燃え上がった。それを見つめる隊員たちは、すでに自分以外の隊員が人間である保障が無いことに気がついた。そして、マクレディは隊員全員の血液検査を宣言した……

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解説

■誰が<物体>なのかわからない恐怖

『遊星からの物体X』は、ハワード・ホークス製作の『遊星よりの物体X』のリメイク企画ではあったが、実際リメイクされたのはオープニングタイトルとノルウェー隊が宇宙船を発見する記録映像ぐらいで、内容はかなり違っている。

 カーペンターはこの件について、原作小説であるジョン・W・キャンベルの『影が行く』は<物体>が人間を模倣して誰が人間で誰が<物体>なのかわからない、ちょうどアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』(孤島に招待された11人の客が1人づつ殺されていき最後まで犯人がわからないというミステリー小説)のようなタイプの物語でそこが魅力的だったのに、『遊星よりの物体X』では<物体>は植物のような性質で人間の模倣はせずフランケンシュタインのように描かれていた、と語っている。『遊星よりの物体X』はまだ5才のカーペンター少年の心を鷲づかみにした思い出の作品ではあるが、カーペンターは基本的に原作小説のほうを元に映画を製作したようだ。

 この作品でカーペンターは、<物体>と人間が狭い閉鎖空間に共存している異常心理事態を上手く表現している。とくに血液検査のシーンが秀抜だ。基地の中で着実に人は減っていき最後に残った人間が見るものとは・・・

■特殊メイクアップの天才、ロブ・ボッティンが参加

 この作品の高評価の理由のひとつは、<物体>の造形にあるだろう。あらゆる生物を模倣してしまう細胞が作りだすイミテーションの塊をどう表現するのか。ロブ・ボッティンが出した答えは観客の度肝を抜くものだった。肉体の破壊と再生、人間と動物の融合、さっきまで会話していた人間の突然変異、それらをボッティンは誤魔化すことなく具体的な形としてカメラの前に提示してみせた。それは過去に表現されたどんな地球外生命体とも違うものだった。

 当時22歳のボッティンは、それまでにカーペンターの『ザ・フォッグ』(’80)でも特殊メイクを担当していたが、注目を浴びたのはジョー・ダンテの『ハウリング』(’81)における狼男への変身シーンである。最終的にカーペンターはこれを見てボッティンの採用を決めたようだ。そして出来上がった本作品で、ボッティンは自身の評価を決定的なものにした。

 そして、もう1人忘れてはいけないのがスタン・ウィンストン。彼はボッティンだけでは時間的に間に合わなくなってしまった映画前半の犬の変身シーンを任された。ウィンストンは後に『ターミネーター』(’84)、『エイリアン2 』(’86)、『プレデター』(’87)、『ターミネーター2 』(’91)、『ジュラシック・パーク』(’93)などに参加し、アカデミー賞の視覚効果賞やメイクアップ賞を受賞している人物。そんな人物がまだ駆け出しのころに助っ人としてこの作品に参加していたのだ。

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[作品データ]

監督 ジョン・カーペンター
脚本 ビル・ランカスター
原作  ジョン・W・キャンベル『影が行く』
出演者 カート・ラッセル、ウィルフォード・ブリムリー、ドナルド・モファット、キース・デイヴィッド
音楽  エンニオ・モリコーネ
上映時間 109分