エイリアンの解説(1979年 リドリー・スコット)

▲一部ネタバレを含みます

【解説】

 『エイリアン』は1979年公開の作品だが、その2年前にはSF映画というジャンルを一気にスターダムに押し上げたジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』の第1作目と、スティーヴン・スピルバーグの『未知との遭遇』が公開され、当時は世界的なSF映画ブームの真っ只中であった。

 『エイリアン』はそんなSF映画に飢えた大衆に大きなショックを与えた。私も初めてこの作品を観たときその現実的な設定とクリーチャーの異様さに驚きをおぼえた。

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■リアルな設定が生み出した緊張感

 そのころのSF映画といえば、宇宙空間を未来的な宇宙船や戦闘機が飛び回るというイメージがあった。また、多少なりともファンタジーの要素が含まれていた。

 しかし、『エイリアン』で宇宙を飛んでいたのは不恰好で巨大な貨物船。船内も使い古された工場のようで、クルーも作業着姿でボーナスの話などをしている普通の労働者であった。また、出演者もいわゆるハリウッドスターのような人物は皆無で、日本では無名の人物ばかりだったので、誰が主人公かも分からない。彼らが古い潜水服のようなものを着て惑星を探索するシーンでは、ドキュメンタリーでも見ているような錯覚に陥ってしまった。

 しかし、出だしのディテールが現実的な分、このあとクルーを襲うであろうトラブルがよりリアルで悲惨な表現になるという漠然とした不安を感じたのも事実である。そしてその予感は当たってしまうのだ。

■キャストの迫真演技が生んだ<恐怖>

 クルーが惑星探査で謎の遺棄船と巨大異星人の化石を発見し、ケインの顔に未知の生命体が貼り付いたあと、前半最大のショックシーンが待っている。顔から生物が取れ意識を回復したケインが食事をとっていると、彼の腹からエイリアンの赤ん坊が現れるのだが、このときのケインの苦しみ方が凄まじい。

 このケインを演じたのはジョン・ハート。彼はイギリスの実力派俳優で、のちにデヴィッド・リンチの『エレファント・マン』(’80)で主役ジョン・メリックを演じ、二度目のオスカーにノミネートされる人物である。『エイリアン』のこのシーンでハートは、リアルな演技で観客を震え上がらせた。(因みに、このシーンの撮影では、ハート以外の俳優はここで何が起きるのか事前には知らされておらず、血が飛び散ったときの彼らの表情は演技ではない。)

 アッシュ役でやはりイギリス人俳優のイアン・ホルムは、自分がアンドロイドであることが発覚するシーンと船内にいる生命体やノストロモ号の航行目的についての説明で、その非人間性を巧みに表現してクルーと観客に絶望感を与えた。イアン・ホルムは1989年に俳優としての業績をたたえられ大英帝国勲章を授与されている。

 リプリー役のシガニー・ウィーバーは、その2年前にウディ・アレンの『アニー・ホール』(’77)で端役で出演していた当時はほとんど無名の女優。しかし、彼女は広い船内で最後の1人になってしまった恐怖を見事に演じ、最後は完全に観客を自分に感情移入させてしまった。

■ギーガー作品集との出会い

 『エイリアン』のような種類の映画であれば、製作者にとって最も大きな課題はエイリアンそのものの姿である。脚本のダン・オバノンが持ってきたスイスの画家H・R・ギーガーの画集『ネクロノミコン』に一目惚れしたリドリー・スコットは、

 “これを造ることができれば、この映画は成功する”
(イアン・ネイサン『エイリアン・コンプリートブック』富永和子他訳、竹書房、2012、 p.39)

 “ギーガーは、彼がみずから“バイオメカニックス(生体機械)”と命名した、有機生命体と機械装置とを融合させた注目すべきスタイルの考案者だった。”
(ポール・M. サモン『リドリー・スコットの世界』尾之上浩司訳、扶桑社、2001、 p.128)

と絶賛し彼を採用した。

 たしかに、他に類を見ないギーガーのデザインは素晴らしいが、驚くべきはその再現性である。彼の絵からそのまま抜け出てきたように完璧に映画の中で再現されている。ギーガー本人が造っているのだから当たり前と考えることもできるが、スペースジョッキー(巨大異星人の化石)やエイリアンの着ぐるみなど大きなものでも高いクオリティが保たれ、作り物めいたところが全く見られない。特に序盤のスペースジョッキー発見のシーンは重要で、あの場面で一気にこの作品の世界観が広がるのが見事である。

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[作品データ]

監督 リドリー・スコット
脚本 ダン・オバノン
出演者 トム・スケリット、シガニー・ウィーバー、ヴェロニカ・カートライト、ハリー・ディーン・スタントン、ジョン・ハート、イアン・ホルム、ヤフェット・コットー
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
上映時間 118分