CURE キュアの解説(1997年 黒沢清)

最終更新日 2023年5月16日 by Kazu

▲ネタバレを含みます

■概要

『CURE』は、1997年に黒沢清が監督・脚本を務めたサイコ・スリラー映画です。役所広司、萩原聖人、うじきつよし、中川安奈が出演しました。連続殺人事件を捜査する刑事(役所広司)と、催眠術を使う謎の男(萩原聖人)の対決が描かれています。事件には、被害者の首にXが刻まれ、犯人が犯行動機を憶えていないという共通点がありました。

■作品のモチーフ

黒沢監督は作品を企画するにあたって、犯人が異常者である事例はたくさんあるが、ごく普通の人間が猟奇的な事件を起こすというものはまだ見たことがないと思っていました。テレビニュースでは、容疑者が過去に良い人だったという関係者の証言や、「まさか、あの人が…」という驚きの声がよく流れます。ところが、メディアは最終的に犯人は善人の仮面を被っていたと結論付ける場合がほとんどです。

しかし、黒沢監督はもともと普通だった人間があるとき異常な行動をするというのが正しいと考えていました。そして、ジョナサン・デミの『羊たちの沈黙』(91年 米)を見て、催眠術で普通の人間を狂わせて事件を起こすという話の骨格が生まれました。

黒沢監督は当初『伝道師』というタイトルで企画していました。しかし、当時社会問題となっていたオウム真理教と、宗教的意味合いを持つ伝道師という言葉が、世間から関連付けられるとの映画会社側の判断があり、治療の意味がある『CURE』というタイトルに変更になりました。

■ロケ地

ロケ地に選ばれたのは、月島にある水産試験所の跡地です。1999年9月7日の東京新聞には、黒沢監督の以下のコメントが載りました。

“『CURE』という映画で、私は登場するほとんどの人物たちの心が、どこか空っぽになっている感じを出したいと考えた。もちろん、人の心そのものは写るはずもない。だから私は、なんとなく空っぽな感じのする場所をロケ場所に選ぶことにした。

この裏話から、『CURE』全体を覆っている空虚感の理由が判る気がしました。人の心という見えないものを、どうやって映像で表現するのか。これは、他の黒沢作品にも共通するテーマだと思います。

…… CURE キュアの解説2 につづく

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参考文献
黒沢清『黒沢清の映画術』新潮社、2006。
黒沢清『キュア』徳間書店、1997。
黒沢清『映画はおそろしい<新装版>』青土社、2018。